■企画概要
2日間のワークショップ、テーマはズバリ「声」
講師はボイストレーナーの きむ まるすん さん。きむさんは「声」の持つ力を追求しています。演劇においては舞台と観客を繋ぎ、日常生活の中では人間対人間の潤滑油となる、「声」を意思を疎通させる「言葉」の前段階として捉え、他者を動かす「声」とはなにか、きむさんの考える「声の秘密」をシェアしていただきます。また舞台演技と映像演技の声の出し方の違いにも着目したく、2日目はゲストに俳優の 和田光沙さん をお迎えし、プレイヤーの視点も交えて学ぶことで、より実践的な技術を持ち帰れるワークショップを目指した。
■ワークショップ内容
きむ先生の考える発声発語の理論のベースは、
2種類の「息の流れ(呼気)」
(1)上昇呼気
アクティブな行動を促す為の上体の下部から上部へと湧き上がる呼気
(2)下降呼気
リラックスの為の上体の上部から下部へと落ちる呼気
「なんであんな小さな声が劇場の後ろまで届くんだろう」という現象を起こすような「伝わる声」「届く声」は(1)です。
今回のワークショップでは、(1)の発声の仕組み、やり方を理解することが大きなテーマ。
(2)がダメということではなく、役によって使い分けることが重要。
ワークショップのスタート地点として、現状の発声が上昇呼気なのか下降呼気なのかをきむ先生が聞き分け、お伝えする。それを知ることで、今の自分の俳優としての強み、またはぶつかっている壁・悩みを、これまでとは違った視点から見つめることができる。今まで漠然とした言葉で捉えていた強み・悩みをより鮮明な言葉で理解する。
では、どのようにすれば(1)の発声が出来るのか。発声のメカニズムを人体図を見ながら具体的に理解しました。「こういう感じで声を出す」というような感覚的な事ではなく、物理的で確かな「体勢」や「重心の置き方」から「伝わる声」「届く声」「相手に影響を与える声」の出し方について学びます。「感覚」ではなく「やり方」を学ぶことで、再現性のある「技術」にすることができます。
「舞台演技」と「映像演技」の声の違いにも着目しました。俳優が演技をする際、「舞台」と「映像」で大きく違うのは「マイク」です。舞台上に広く収音するマイクが置かれる「舞台」と、身体に密着した場所にマイクがあり繊細に声を拾う「映像」では、「声を落とす場所」が異なります。これは感覚的な事も含みますので、実際に映像の現場で活躍する俳優の和田光沙さんにゲストでお越しいただき、より実践的な視点からの解説も交えて学びました。
■講師
きむ まるすん
ボイストレーナー
ボイスファクトリーすにぃ主宰
役者・演出を経て、演劇における声の支配力に着眼。アクティングトレーナーからボイストレーナーへと方向を変える。1994年、スピーキングボイスにおける表現の可能性を求め「身体と呼吸と声からの言葉へのワークショップ」として「ボイスファクトリーすにぃ」を立ち上げる。
■ゲスト
和田 光沙
2008年より役者活動を始める。出演作に映画『岬の兄妹』『菊とギロチン』『パラダイス・ロスト』『蒼のざらざら』『由宇子の天秤』『誰かの花』『冬薔薇』『やまぶき』『映画(窒息)』 、Netflix『サンクチュアリ-聖域-』wowow『鵜頭川村事件』、音楽朗読劇『ヒロシマ』等。2024公開『獣手』では企画制作配給にも携わる。
■参加者の声
・過去に舞台で喉が枯れたり、伝えたい気持ちはあるのに劇場に吸い取られて相手には届いてないなと悩んでいたけど、どうすればいいかもわからず後回しになったまま今に至っていたので、今回のWSで何故そうなっていたのかや自分の癖・声の出し方を教えてもらえて、まず現状を知ることができたのが嬉しかったです。聞きやすい声だなとか表現の幅が広くていろんな感情にさせられるな等、表面的な部分はわかっても、じゃあその声を自分が出すにはどうしたらいいのか?その声はどういう発声をしているのかを追求したこともなかったので、それを今"知れた""体感できた"ことは、今後の自分にとってすごく大きな出会いをしたと思って興奮しています。だからこそ、身体でモノにして自信に繋げたいです。2日間貴重な経験を本当にありがとうございました。
・すごく勉強になり本当に応募して良かったです…! 声がなかなか届かないな…などざっくりとした悩みは今まであったのですが、ここまで深く声について考えたことなくって、今回のワークショップに参加して、こんなにも声を出す時いっぱい意識することがあるんだなとびっくりしましたつま先重心とかかと重心に変えて2人で演技をしたとき、声のが自分で出してて全然違うって感じたのと、相手の声も全然変わってて驚きました!
・参加できて良かったです。自分の身体としっかり向き合うことができました。普段関わるWSは台本と向き合うということが圧倒的に多いので、とても貴重な機会でした。今まで感じていた謎やモヤモヤも明らかになりました。中堅に受けて欲しいWSだと感じました。いろんな方法論や、演技論、身体論を学んできたことで構築されてしまう、こうあるべきという無意識な当たり前を疑う機会にもなりました。ここに向き合うことで、大きな変化、成長を望めるのではと感じました。
・今回の『声の秘密』WSで、きむ先生と出会えたこと、上昇/下降呼気の概念に触れる貴重な機会を頂いたことに只々感謝の気持ちがあります。生活圏から遠く離れた場所でのWS等に参加することは普段では考えられないことなのに、小さいきっかけがいくつも重なって今回の受講に至り、何かに導かれたとしか思えませんでした。 そもそも何を以て"演技をする"というのか?という前提から考えさせられましたし、日頃から足の裏〜頭の先まで体全体を意識して使うこと・鍛錬することがいかに大事か痛感しました。重心の位置、姿勢、息の流れ、声の方向、声を落とすポイントなどを意識するようになりました。日常生活から変えていくつもりで、教わった感覚を体に染み込ませていきたいです。生活が変わるということは即ち人生が変わることだと思っているのですが、まさにこのWSで人生変わるかも、というぐらいの学びを得たように感じます。大袈裟でなく。大変有意義な素晴らしい機会でした。
・上昇呼気、下降呼気がここまで変化できるものだと思わず、自分でも体感した時は衝撃でした…!声だけでなく、身体も自由に自己から離れて動いている感覚があり、表現者として必要な要素であると強く感じました。きむさんがご指導なされた方々のお話を聞いた事で、その変化とそこまで達した努力を知った事も大きいです。
落語家、映像芝居、下降で演じている役者など、どれも知らないままだと怖いと思うほど、自分の中で上昇呼気が大事なものか感じました。知る事ができたからには、自分の身体で体現したいと思い、教えて頂けた呼吸法と気海の存在を意識して過ごします。声の鍛錬に関係したものではありませんが、WS中に話して頂いた中で、“絶対にダメなもの、悪いものはない”という言葉に面食らいました。良し悪しを自分で測ろうとせず、引き出しに入れておく。心にしかと刻んでおきます。
・なんとも時間が短く感じました。もっともっといろいろなことが聞きたかったです。きむ先生の声に関する考え方の、ほんの入り口をのぞかせて頂いただけでも、その先の世界に震えました。今後とも精進します。全体的にワークショップの雰囲気も温かく、若い役者さんにとっても居心地のいい空間だったのかな、と思います。個人的にはいろいろお言葉を頂き感謝しかありません。
・今回のワークショップは今までの自分の発声の概念が覆る刺激的な2日間でした。体ひとつ変えるだけで、自分がいままで感じてた声の出しにくさが嘘のようにまっすぐな声がでて、初めはほんと魔法のように感じました。2日目に体の仕組みや声の原理を学ぶことで、1日目のなんとなくすごいと思っていた魔法の原理を知れて、自分もこの声を自由に操れるようになりたい!と、強く思いました。実際に練習方法を学び実践して、1日目より安定して声を出すことができてとても嬉しく感じ、今後もこの練習を続けて行きたい思いました。息、声の使い方、体の使い方だけで演技も相手との会話も大きく変化が起き、終始驚きでした。今回のワークショップに参加出来たことは自分にとってとても大切な経験になりました。ありがとうございます。
・大変ハッとさせられることが多く、実りのある時間でした。今まで技術的なことを度外視して芝居に取り組んでいたのですが、最近限界を感じておりました。なんというか「私はいまのままだと、キャパの大きい舞台で大きい役を任されることは無いぞ」というようなことを思っていました。しかし、技術的な知識が無いため、何が限界たらしめているのか分析することも出来ませんでした。この声のWSを通じて、一体何が原因としてあるのか手がかりが掴めたような気がします。細かいニュアンスを大舞台でも自然に出せるようにするには、明確に客席に届く声が必要なのだと思いました。きむさんの「上昇発声の方が表現の幅が大きい」という言葉がよく理解できました。ニュアンスをあえて大きく“出そう“としてお芝居すると、本人の感情ベースでの動作がノイズになってしまい、セリフも掠れて聞き取れなかったり、逆に感情移入しづらいものなのだなとハッとさせられました。上昇発声でのお芝居をやるのにはまだまだ時間がかかるとは思いますが、「重心の位置を変えると態度が変わる」「二音目を下げない」「ノッキングしない、語尾をのまない」というようなことは現時点でも反映出来るので、今お芝居する時に意識しています。また、きむさんの「自分の声を見る」という表現が好きです。よくある言葉として「セリフを綺麗に言っていても何を言ってるかわからない現象が起きるのは、本人もセリフの意味をわからずに言ってるから」というのがあります。その通りだとも思いますが、それよりも「自分の発した言葉が場に届けられていなくて、自分の言葉で作った風景を見れていないから。」という解釈の方が個人的にはしっくりきました。きむさんの考えは、とても気付かされるものが多いです。
・非常に面白かったです。発声における身体のメカニズムや台詞の技法などは、様々なところで聞き及んでおりました。が、それがどのように繋がり合うのかが腑に落ちておりませんでした。今回のきむ先生のお話で見事にカチッとハマり、やっとわかった気がします。また、今回様々な俳優が揃っていたこともたくさんの学びに繋がりました。映像/舞台、初めたばかり/大先輩など、あらゆる角度から"演技とは"を考えることができました。そして、きむ先生の目指すところが一貫しており、ゴールがわかりやすかったです。まだ一言では言い表せませんが、『あそこに向かうのだ』と思えたことは俳優人生において大切な指針をいただいたと思いました。主に声についてになりましたが、映像のシーンも面白かったです。映像演技に関するWSには参加したことがなかったので、新鮮かつ「勉強せねば」とお尻を叩かれました。
■日程
8月1日(木)・8月2日(金)
両日11:00〜16:00
講師:きむまるすん
ゲスト:和田 光沙
講師補助:鍛治本大樹
企画・進行:伊藤白馬